労働生産性向上を促進するのは個々の意識改革
一般的には「日本人は“まじめで勤勉”と世界から思われ尊敬されている」と語られることも多く、それに同意される方も多いのではないでしょうか。しかし、近年は労働生産性に関する調査結果によって「日本人は仕事効率が悪い」「労働時間が長いわりに成果を出せていない」という見方が浸透しつつあるのが実情です。すでに現在、政府が推進する働き方改革などにより、日本社会の労働に対する意識は変化しつつありますが、労働生産性の大きな改善のためには、経営者だけでなく個々の労働者の意識改革が不可欠と言えるでしょう。
日本の労働生産性は諸外国と比較して低い
日本では長時間労働や残業の多さが問題視されていますが、その一方で、日本の労働生産性は他の先進国よりも低いというデータがあります。2015年に実施されたOECDの調査によると、対象となった35ヶ国中、日本の順位は22位。OECDの平均である89,386ドルを大きく下回る74,315ドルです。
“勤勉”のイメージを抱かれがちな日本人の労働生産性が、なぜこんなにも低いのか疑問に思う方も少なくないでしょう。その理由の1つは、長時間労働が良しとされてきた日本企業の伝統にあります。労働生産性は「付加価値÷総労働時間」の計算式で求められますが、分母となる総労働時間が諸外国よりも長いため、必然的に労働生産性が低くなってしまいます。
近年では、サービス残業を含む長時間労働が、心身の健康やライフワークバランスといった観点から問題視されるようになりました。しかし、日本全体の労働生産性を上げるためという意味でも、一層この悪しき習慣を改善する必要があると言えるでしょう。
生産性の低さを助長する日本人のサービス精神
また、生産性の低さは日本人のサービス精神にも由来しています。日本では、飲食店でもコンビニでも公共交通機関でも、とにかく丁寧な接客と過剰なほどのサービスが当然のように提供されます。こうした“おもてなしの精神”は日本の美徳であり、外国人観光客を惹きつけるセールスポイントの1つですが、労働生産性という観点から見ると、どんな場面でも至れり尽くせりのサービスを提供することはむしろマイナスと言えるのです。
労働生産性とは、就業者数1人あたりのGDPのこと。つまり、労働生産性を上げるには、就業者数を減らす以外の方法として付加価値を増やす必要があります。しかし、実際にはどれほど素晴らしいサービスを提供したとしても、それによって価格を大幅に吊り上げるのはなかなか困難です。そのため、消費者の満足を得ることはできても、労働生産性を上げることはできません。
とはいえ、サービス精神が旺盛なこと自体がいけないことではありません。問題なのは現状では多くの場合、サービスの質に見合った価格がつけられていないことです。雇用者が被雇用者に対し、賃金から見て妥当性を欠くサービスの提供を強要しないことはもちろんですが、労働者の側も、賃金や労働時間に釣り合わない過剰なサービスを提供していないかを今一度考える必要があるでしょう。また私たち1人ひとりが、日々の生活で提供されるサービスの質に対してもう少し寛容にならなければいけません。
社会と個人の双方が利益や付加価値を創出する意識を高くもつこと
日本の労働生産性を向上させるためには、社会全体で長時間労働や過度のサービス提供を是正するのに加え、テクノロジーを駆使して効率的に利益や付加価値を生む仕組みをつくるのが不可欠と言えます。現状では、日本のITへの投資は、アメリカなどの他の先進国に大きく後れを取っています。
もし日本でもアメリカのように、顧客情報の管理や分析といった作業をITに任せられるようになれば、より効率的な営業活動が展開できるようになるでしょう。今なお手作業が中心となっているバックオフィス業務も、経理関係は「FinTech」、人事関係はテクノロジーの活用によって人材育成や採用活動、人事評価などの人事領域の業務の改善を行う「HRTech」の活用によって飛躍的に能率が上がるはずです。
また、労働者側にも意識改革が必要です。いくら社会がテクノロジーを駆使する仕組みづくりを進めても、実際に働く労働者がそれを使いこなせなければ労働生産性は向上しません。私たち労働者の1人ひとりも、利益や付加価値をより多く効率的に創出する意識を強くもち、テクノロジーを使いこなすスキルを習得できるよう努めましょう。