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「情報銀行」設立で個人データが取引される時代に

2019/09/23

 

「情報銀行」設立で個人データが取引される時代に

銀行は金銭を預かり、他方にその貸付を行い、手形割引・証券の引受けなどを行う金融機関ですが、新たに「情報銀行」というネットワークが誕生しようとしています。2019年、プロフィールやネットショッピングの購入履歴、健康情報など、個人のデータを管理する新たなアイデアとして情報銀行が設立されようとしています。実用化への準備が着々と進む「情報銀行」は、個人ではこれまで手の打ちようがなかった“個人情報の漏洩”を予防する策となるのでしょうか?

2019年に開始される「情報銀行」とは

情報銀行とは、生活者個人とその情報を利用したい企業を仲介し、個人データ(連絡先や購入履歴、位置情報など)を安全に収集、管理、提供するシステムです。金融機関の銀行は、個人から預かった金銭を元手に、お金を必要とする第三者に貸付を行いますが、情報銀行では生活者によって預けられた個人のデータを、個人が同意する範囲で企業やサービスに提供し、公益に結びつけます。

消費者が情報銀行にデータを預けるメリットは、個人情報のむやみな流出を防ぐことができる点です。今までは、自分の大事な個人情報が知らない間に企業間で売買され、心当たりのないところから商品やサービスの案内が届くことも珍しくありませんでした。情報銀行にデータを預ければ、情報を提供する事業者を制限できるだけでなく、情報の提供履歴からデータの追跡が可能になります。

情報銀行を利用して収益拡大の機会を得た事業者は、情報の提供元である生活者に対して何らかの便益を返すのが基本です。事業者がマーケティングのために個人の購買履歴の提供を受けたら、謝礼として生活者個人に自社のクーポンを付与するというように、個人は情報提供によって対価を得られます。情報銀行は、個人情報のトレーサビリティを高めるだけでなく、個人が同意する範囲で企業活動にデータを活かし、社会全体の暮らしの質を高めるために考え出されたシステムと言えるでしょう。

漏洩防止など情報管理がより問われる時代に

個人情報の管理が紙媒体からデータに移行したことで、絶えず情報漏洩の脅威にさらされるようになりました。情報漏洩が起こる原因は、マルウェア感染や人為的なミスまでさまざまですが、2015年に流出した個人情報は、日米だけでも5億件を超えると言われています。個人情報は悪意ある事業者に渡ってしまったら最後、自分の情報であっても回収できないことが長年の課題でした。

情報銀行を介したやり取りなら、情報提供の同意を撤回して自分のデータが特定の事業者に利用されることがないよう、理論上はデータを取り戻すことができます。情報銀行の利用者は、提供先、利用目的、データ項目などの選択肢から提供する情報の範囲をコントロールできるうえ、自分のデータがどんな事業者に渡ったか履歴を閲覧するなどして、今までは困難だった個人情報のマネジメントが可能となるのです。

いくら情報銀行が公益性の高いシステムでも、システムや制度に穴があれば、情報漏洩によるプライバシー侵害の脅威が拡大することは避けられません。現在は、個人データ利用の安全性と透明性を確保するため、情報銀行の実証実験が行われている最中ですが、信頼性を確保するための策として、法律実務家やセキュリティ専門家、そして消費者の代表で構成されたデータ倫理審査会(仮称)の設置が検討されています。万一の場合、誰が損害賠償責任を負うかについては引き続き議論が必要でしょう。

遠くはない情報がお金と等価になる未来

情報銀行事業は総務省の統括のもと、官民一体で進められています。2018年10月に実施された情報銀行の事業者認定に関する説明会には、募集人数を大幅に超える来場者が詰めかけ、期待の高まりを見せました。2019年3月には、情報銀行に参入する事業者を政府が認定するスキームが始まりますが、すでに参入を表明している事業者には、日本を代表する大手企業も多く含まれています。

ここで注意すべきは、情報銀行は生活者自らが個人データをマネジメントするために生まれた制度であって、個人や事業者がデータを売買して利益を得るためのものではないということです。いくら個人情報の活用が企業の収益拡大を後押しするといっても、情報提供によって得られるリターンはおまけに過ぎません。

今後は企業に代わって情報銀行が、一般の消費者や労働者の個人レベルまで自らのデータを管理・取引する時代が訪れようとしています。お金と同様に価値のある個人情報を適切に扱うためには、今から感度を高めておく必要があるでしょう。そう遠くない未来、働くことにおいても情報をいかに司るかがより大きな意味を持つことになるはずです。

 

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2019/09/23 更新

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